2008年の夏、私は東京でダウン症の人たちのためのアトリエに出会い、そこでスタッフとして彼らの世界に寄り添う中で多くを学びました。
仲間といつも笑いあい、思いやっていること。
すっと柔らかく人を受け入れること。
いつもリラックスしていて、ユーモアにあふれていること。
決してやりすぎず、ちょうど良い加減を知っていること。
時空を超えてヒト・モノ・コトをつないでしまうこと。
すべての喜びを包んで今ここにいるという空気が作品に織り込まれていること。
外で何があろうと、彼らのいる空間は気持ちいい風と光とやさしい気持ちで満ちていました。
彼らといると、時々不思議なことが起こりました。
言おうとしていることを分かっていたり、花や鳥や犬や空の人とも話ができたり。
でもそれはダウン症の人たちにとって特別なことではなく、ごく自然なことでした。
そして、ただ海を見ている時のような、森に入っている時のような、真っ新な気持ちで彼らに寄り添うと、私たちにもその世界は開いてくるのでした。
そんな世界から生み出された作品は、色やかたちが調和して、どこかほっとするような、微笑んでしまうような、おおらかな雰囲気を纏っています。彼らの性質そのままを映し取ったように。
この作品が生まれる場に居続けたい、ダウン症の人たちが見ている世界を一緒に見続けたいと思いました。
2014年の春、東京から縁あって島根に移住してからもその思いは消えることはありませんでした。そこで思い切って、この度島根でアトリエを始めました。
ダウン症の人たちが自分だけのリズムで制作をすることで生きる活力へと繋がる場所になるように。
彼らの感性が野花のようにあるがままで美しいことを感じられる場所であるように。
小さくて、こころの通いあう、風が吹き抜ける場所を目指して。
2016年4月12日
Atelier Sunoiro
栗山千尋
ーアトリエ名前の由来
尊敬する花人、川瀬敏郎さんの本で、「素とは足すことも引くこともできないものです」という一説に出会いました。川瀬さんは、人為を加えず、草木花のおのずからなる姿をめでる花を、「素の花」と言われています。ダウン症の人たちのおのずからなる感性を信じて、「素の色」=Sunoiroと名付けました。
■staff 栗山千尋
福岡県八女市生まれ。武蔵野美術大学芸術文化学科卒。静岡の児童福祉施設にて障がいをもつ子どもたちと生活をともにしながら、美術の時間、展覧会を担当。その後ダウン症の人たちのための制作の場「Atelier Element Present」東京スタッフとなる。一緒に過ごした時間、呼吸をするように生みだされる作品と空気感が忘れられず、I ターンした島根県浜田市にて2016年「Atelier Sunoiro」をはじめる。