アトリエから見えるお庭の梅の花もちらほら咲き始めました。
寒さがゆるみ、すぐそこの春が待ち遠しくあるこの頃です。
春のお知らせです。
ご縁をいただき、3月に東京でアトリエのお話をさせていただきます。
島根県浜田市でダウン症の人たちのための制作の場「Atelier Sunoiro」をはじめてもうすぐ3度目の春を迎えます。
ダウン症の人たちが見ている世界にたどり着けるのは遥か先、という思いでいますが、素のままの感性で生きている彼らがこの月日の中、アトリエで見せてくれた美しい光景を、少しでもみなさんと共有できたら嬉しいです。
前半はアトリエの写真を中心にお話を、後半は絵の具を使ってちょっとした遊びをしたいと思います。
ご参加をお待ちしております。
写真は、時々の初心、ということでアトリエの支えになっている言葉を。
◻︎日時:3/2(金)19:00~21:00
◻︎場所:東京ミッドタウン 富士ゼロックス本社(5F)501会議室
◻︎参加費:700円(軽食+材料費として)
今回はご縁をいただいた、富士ゼロックスの社員の方にお話させていただくのですが、社外の方のご参加も受け付けております。
参加ご希望の方は、お名前、所属(会社/団体名)、メールアドレス、電話番号を明記の上、kuriyama@sunoiro.comまでメールをお送り下さい。
久しぶりの投稿となりました。
アトリエをお借りしている古民家には、すきま風がきびしい冬ですが、
Sunoiroクラスもコドモクラスも、みんな元気に通っています。
アトリエは建物の一番奥にあるので、戸を締め切るこの季節は玄関からアトリエまで6枚の戸を開けて向かいます。
「めいろだなーこりゃ」というみんなの声を聞くのがこの季節の定番になりそうです。
今日はじょうくんのお話を。
約半年前からSunoiroクラスに参加しているじょうくん。
じょう君はリラックス上手。アトリエの床に寝っ転がって絵を描いたり、ソファで本を眺めたり、リビングのようにして過ごしています。
そんなじょう君の最近の制作スタイルは、気になる本をひっぱりだしてきて、それを読んでもらいながら描くというもの。
アトリエの本棚の片隅に、「食」にまつわるエッセイ本のコーナーがあるのですが、じょう君は絵本でもなく、雑誌でもなく、画集でもなく、なぜか毎回その食の本コーナーから本を選ぶのです。背表紙がとりわけ目立つわけでもなくむしろ地味なのですけれど、、鼻がきくのでしょうか。
その本を私に渡して、じょうくんが「ここ」というページを私が読む。すると「うん」と力強くうなずいて筆を走らせる。一筆終わると、ページをめくり再び「ここ」というページを私が読む。描く。読む。描く。というなんとも独特の制作スタイルができあがっています。
食にまつわる本ばかりなので、雨の日に作る干物の話やあさりの酒蒸しのレシピ、オクラの効用やお弁当の記録etc,,,なんとも興味をそそられる美味しそうな文章ばかりです。「おいしそうだね」「うん」(うなずく)「なに食べたい?」「ここ」(指差す)という会話で盛り上がりながら1枚の絵ができあがっていきます。
多くの言葉がでないじょうくんにとって制作の時間は会話そのものなのだなと思います。
本を選ぶこと、その本の読んでもらいたいページを指すこと、静かにゆっくり聞くということ、納得し、色を選び筆を走らせるということ。それを繰り返すということ。
その流れの中に、じょうくんと私との間で静かな会話がされていることに気づきます。
指をさす、聞く、目を見合わせてうなずきあう、触れる、ほほえみあう、繰り返す。
お互いを信頼しているから。
それは赤ちゃんと会話をしている感覚に近いのかなと思います。
ことばの前の、静かで、穏やで、確かなコミュニケーションをじょうくんが教えてくれます。
最近Sunoiroクラスに通い始めたヤエちゃん。
ある日のおやつの時間でのこと。
おやつ好きなヤエちゃんがなかなかビスケットを食べようとしません。
絵も描いて、ひとしきり遊んで、小腹も空いてきたはずだけどな。。
試しに私がひとかけら食べて差し出してみると、そうだよと言わんばかりの顔で一口食べて、それからまたそのビスケットを私に向ける。次はヤエちゃん。次は私。そうして3枚のビスケットをひとかじりずつ食べあいました。ビスケットはヤエちゃんの分しかお盆に準備していませんでした。
ああ、そうか、一緒に食べようとしてくれてたんだ、食べたかったんだ。
その気持ちに気付いた時、仲間と食べ物を分け合うというシンプルで原始的な感覚に触れた気がしました。
「食べる」ってあなたとわたしと「分かち合う」ことだよ、と。
そういえば今まで出会ったダウン症の人たちも、食べることが好きでした。
お弁当の時間はお互い本気で見せ合って食べていましたし、何より彼らと一緒に食べるのは楽しかった。
オープンな彼らは、「食べる」を通して人とつながっているのかもしれません。
暑いけれど、カズくんのリズムはいつもどおり。
色があふれる。
カズくんの生きているリズム。
今日も素晴らしい時間でした。
今日のオトナクラス
「絵を描くことともっと友達になりたい」ということばから始まった今日のアトリエ。
今日は大きい紙の気分じゃないな、ということで、
15センチ角の正方形の画用紙に描いていきました。
オレンジの気分だったけれど、描いてたら、かすれが気持ちよくなってきたなーと、
絵の具と紙の出会いをいろいろと試してみました。
11枚の小さな絵、それぞれに表情がありますね。
素材が自分を連れて行ってくれる、この瞬間の光や色、風や気分が自分を絵に引っ張ってくれるような感覚。
自分の思いがふっとほどけて、描くことに身を委ねられた時に見えてくる景色があります。
オトナになると絵を描くことが怖かったり、苦手だったり、不安だったりもしますが、
ここでは気を楽に、描くことを身近に感じられる場所であれたらと思います。
お手本はもちろん、ダウン症の人たちです。
その静かな佇まいから夏は苦手なのかと思っていたら、カズくんは夏が好きなのだという。
昨日までのたくさんの雨が上がって蒸し暑くなった今日の午後、カズくんはアトリエで時間たっぷりに絵を描いた。
1枚1枚、海にもぐっていくような深い呼吸で。時々息つぎをしながら。海の中は光が反射して何色にもなっていることを、絵を通して伝えてくれた気がします。
見えない世界こそ美しい。
そんな世界を見ているカズくんをこころから尊敬します。
おとくんが言葉で何かを伝えたい時、時々、こちらが聞き取れないときがあります。
ある日のアトリエで、「た、ら!」ってしきりに言ってたけれど、何を指しているのか分かりませんでした。
まねて「た、ら!」「た、ら?」と繰り返してみるけれどいっこうにイメージが浮かんできません。
「食べ物?」と聞いてみてもちがう、「テレビ?」と聞いてみてもちがう。
結局その日はわからずじまいで終わってしまって、
「分からなくてごめんねー」と伝えて次のアトリエの時になりました。
次のアトリエ日、おとくんが自分の肩をとんとんと叩いて「音楽」と表します。
「音楽聞きたい? じゃあおとくんの好きなピタゴラスイッチにしようかー」ってかけたら、「た、ら!」と再び伝えようとしてくれます。
その時、ふいに扉が開けた感じがして、「どっちがどっちー、か、な?」って口ずさんでみたら、満面の笑みで、「た、ら!」と。
やっとわかったねー、と言わんばかりに、おおらかに、きゃっきゃっと笑っていました。
おとくんは自分の好きな曲を、これが聞きたいという気持ちを「た、ら!」と伝えていたのでした。
伝わらないといって、かんしゃくをおこすわけでもなく、怒るわけでもなく、悲しがったり、相手に期待したり、責めたり甘えたり、そんなことはしないで、伝わるまでじっと待つ。
おとくんは私が分かるまで、2週間待っててくれていたのでした。
そのことに気づいた時、ダウン症の人のもつ寛容さに感謝すると同時に、なんて平和な伝え方なんだろう!とめまいを覚えました。
彼らのそのままのこころから学ぶことが多くあります。
津和野町左鎧にある「山のこども園うしのしっぽ」におじゃましてアトリエをさせていただきました。
この保育園の子どもたちは毎日を山で過ごしています。牧場の周りの広いフィールド全体が子どもたちの遊び場です。今日どこで遊ぶか、何をするかは自分たちが決める。山だからこその心地よさ、やさしさ、美味しさ、怖さ、不思議さ、凄さ、美しさを全開の感覚で受けて、瞬間をめいっぱい生きているこどもたち。アトリエ時間は写真のとおりです。
まだちっちゃなこうちゃんが、絵を描く手をとめてじっと目の前に広がる景色を見つめます。「きれいだね」って言ったらほんとに小さく頷いてまた絵を描き始めました。
こんな環境で、表現する場を共有させていただけたことに感謝です。うしのしっぽの京村先生、スタッフのみなさん、そして最後にさくらんぼを手のひらいっぱいにくれた子どもたち!ありがとございました。
肝心の作品の写真を撮り忘れてしまったのですが、、自然の中で感じるままに表現した一人一人の絵、どれもきれいだったのですよ!
今日は朝から春の光がまばゆい1日となりました。
あたたかくなって、窓から入る光もやわらかくなって、
みんなからだも開いてきたようで、
アトリエでも、ここ数日、春らしい作品がうまれています。
作品も中庭で見ると、より気持ちよさそうです。
4月12日でAtelier Sunoiroも1年を迎えることができました。
1年前はベージュ一色だったコルクの床は、
とびちった絵の具で見えなくなるくらいになりました。
窓から入るきれいな光は変わらないけれど、
みんなが過ごし、制作した時間が気配となって残って、よりきれいに見えます。
1年前と違うのは、この床と、ここで生まれた作品が壁に飾ってあること。
この1年、3人のダウン症の人たちが通ってくれました。
一人一人の持つリズムで制作できるように。
一人一人のそのままが作品になるように。
アトリエではそのままの自分でいいんだって思ってもらえるように。
こころがけてきました。
3人とそれぞれの時間を過ごしてきて、
ダウン症の人たちの見ている世界は深くてやわらかなものだと感じています。
同じ時間を過ごしていても、
彼らは私よりもっともっとたくさんのことを感じているし、見ています。
光、風、気持ち、色、質感、空気、気配、声。
彼らが見ている景色を少しでも同じように見たい、
こころからからごく自然にうまれる作品を見たい。
その思いは1年前から変わりませんし、
きっとこれからもそういう思いでアトリエに立つのだと思います。
彼らが輝いているなと思う瞬間、
自分を生きているんだなと思う瞬間の出来事を
ここでも記していけたらと思います。
時々の初心、で真っ新な気持ちを思い出して、
アトリエでの時間を丁寧に積み重ねていきます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
小さなりんたくんの中にある母性を感じた今日。
一緒に絵本を読んでいて、私が眠たくなってきたなーって言ったら、
「ちひろさんはねてて。りんたくんがえをかくから、ねてて」って。
そっと目をつぶっていたら、毛布をふんわりとかけて、
まるでお母さんみたいに手を添えてゆっくりとんとんと体をたたく。
私が目をつぶっているのを確認してから、ひとり絵に向かっていった。
できた絵は、大きな紙に鉛筆で今まででいちばんダイナミックに描いたもの。
「できたよ。ねれたでしょ?」
こんなに小さなりんたくんの中に、どこまでも深く、人を包み込む力がある。
こどもクラス番外編
もうすぐ浜田を離れるお友達が最後にアトリエに遊びに来てくれました。
大きい絵を描きたいって、ふたりで画面に向かいました。
「何描こうかなー」「手でぺたぺたやっていい?」
一人がペタペタしだすと、もう一人も型がはずれて
「あ、僕もそれで木を描こう」って。
「絵の具でひかりを描こう」って次々に感性が響き合って、
なにやら即興でセッションが始まったみたい。
あっと言う間に2人の時間がぐっとつまった絵ができあがりました。
「今日、絵を描くのが今まででいちばん楽しかったかも」ですって。
場の記憶は残るから大丈夫。
またいつでも浜田においでね。
最近のオトくんは「きれー!」ってよく言う。
筆を勢い良く振り下ろしてきれいなしずくの線を描いたのは僕だ。
そう感じているみたいです。
オトくんの作品は瞬間で変わっていくからほんとうにエキサイティング。
どうなっていくのか、どこで終わるのか、行き先の分からない船に乗っているけれども、こころから信頼できるオト船長だから安心だなあという感じです。
描いた後にはご覧のとおり至極リラックス。
その力の抜き加減と瞬間の入れ具合に、絶妙なバランスを学びます。
今日は雨が降ってより冷えた午後になりました。
そんな中のカズくん最後の1枚は「朝日を見に行こうよ」。
この寒い中にも、ほんのり春の気配が感じられる作品になりました。
春を感じる彼のからだと、それをそのまま表現できる感性がすばらしいなと思います。
春はすぐそこです。
昨日、女の子が描いた「虹のトンネル」
かずくんが描いた絵も
朝の光のなかで、素のままに、輝いてる