2017-06-14
伝える
おとくんが言葉で何かを伝えたい時、時々、こちらが聞き取れないときがあります。
ある日のアトリエで、「た、ら!」ってしきりに言ってたけれど、何を指しているのか分かりませんでした。
まねて「た、ら!」「た、ら?」と繰り返してみるけれどいっこうにイメージが浮かんできません。
「食べ物?」と聞いてみてもちがう、「テレビ?」と聞いてみてもちがう。
結局その日はわからずじまいで終わってしまって、
「分からなくてごめんねー」と伝えて次のアトリエの時になりました。
次のアトリエ日、おとくんが自分の肩をとんとんと叩いて「音楽」と表します。
「音楽聞きたい? じゃあおとくんの好きなピタゴラスイッチにしようかー」ってかけたら、「た、ら!」と再び伝えようとしてくれます。
その時、ふいに扉が開けた感じがして、「どっちがどっちー、か、な?」って口ずさんでみたら、満面の笑みで、「た、ら!」と。
やっとわかったねー、と言わんばかりに、おおらかに、きゃっきゃっと笑っていました。
おとくんは自分の好きな曲を、これが聞きたいという気持ちを「た、ら!」と伝えていたのでした。
伝わらないといって、かんしゃくをおこすわけでもなく、怒るわけでもなく、悲しがったり、相手に期待したり、責めたり甘えたり、そんなことはしないで、伝わるまでじっと待つ。
おとくんは私が分かるまで、2週間待っててくれていたのでした。
そのことに気づいた時、ダウン症の人のもつ寛容さに感謝すると同時に、なんて平和な伝え方なんだろう!とめまいを覚えました。
彼らのそのままのこころから学ぶことが多くあります。
関連記事